寝ることと居ることと

国道を隔てた向かい側に、廃墟となった自動車会社がある。
ドラム缶や無数のタイヤとホイール、洗濯機などが固めて置かれた裏の空き地は、いつの間にか自分の場所となっていた。曇り空の日はそこでものを書いたり、本を読んだりする。五月の風は緩やかなのに感情がなくて良い。自動車が延々と走り去る音だけ聞こえるその場所が、唯一穏やかになれる場所だった。整然とごちゃごちゃしているから、誰がいつ来ようと拒まない。野良猫も虫もあたしも平等に受け入れてくれた。
此処の所あたしは極度に神経が張り詰めていた。始めは確かに存在を確認出来ていた自己の意思などとうに失せ、思考を廻らせる事が辛くなっていた。
でも夜はやってくる。ハルシオンを1シート飲んだって寝付けないのは判っていて、それでもぼうっと齧り続ける。眠りたい。鬱の波が来て、叫び出しそうになっては思い止まる。理性は居るらしい。
家を抜け出してアルコールを買いに行こう。お酒が飲めないあたしに今取れる最善の策。午前3時、笑いながら門を飛び越えた。